2025年3月01日
「最近、もの忘れが増えた」「同じことを何度も聞かれる」──そんなとき、多くの方がまず思い浮かべるのが、アルツハイマー型認知症ではないでしょうか。認知症のなかで最も多く、日本では全体の約6〜7割を占めるといわれています。
この病気は、1906年にドイツの医師アロイス・アルツハイマー博士が初めて報告したことから、アルツハイマー型認知症と呼ばれています。記憶や時間、場所の感覚がだんだんと弱まり、日常生活に影響が出てくる病気です。
よく見られる症状
▷ 記憶障害
もっとも早く目立つのが、新しいことを覚えられなくなる症状です。数分〜数時間前の出来事を忘れ、同じ質問や話を何度も繰り返すようになります。
たとえば、食事をした直後なのに「ごはんまだ?」と聞いたり、財布やカギを置いた場所がわからず家中を探し回ったり…。しまいには「誰かが盗った」と思い込む「もの盗られ妄想」が出ることもあります。ご家族は懸命に介護していても、本人の言葉だけで周囲に誤解されてしまうこともあり、つらい思いをされる方も少なくありません。
▷ 見当識障害
「今日は何日?」「今どこにいるの?」といった時間や場所の感覚がわからなくなる症状です。約束を忘れたり、公共料金の支払いが滞ることが増えたりします。昼夜の区別がつきにくくなり、深夜に洗濯を始めたり出かけようとすることもあります。
▷ 言葉の障害
初期には「アレ」「ソレ」と指示語ばかりになったり、言いたい言葉が出てこなくなったりします。会話の中で相手の話を理解するのが難しくなり、次第に語彙が乏しくなって同じ言葉を繰り返すようになります。重症になると言葉自体が減り、表情や視線だけで気持ちを伝えるようになることもあります。
なぜ起こるのか?
アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞に異常なたんぱく質(アミロイドβやリン酸化タウなど)がたまり、神経が少しずつ壊れていくことで起こると考えられています。
こうした変化は高齢になれば誰にでもある程度見られますが、「どこに、どれだけたまるか」によって発症するかどうかが変わるとされています。
どのように診断するか? 〜訪問診療でも可能です〜
「認知症の診断には、病院でMRIを撮らないと無理なのでは?」とよく聞かれます。たしかに画像検査の情報は有用ですが、認知症の診断は、症状の経過と日常生活の変化をていねいに確認することで可能です。
当院では、精神科・認知症診療の専門医がご自宅へうかがい、日常のご様子やご家族のお話をもとに丁寧に診察を行います。
必要に応じて、連携する病院での検査をご紹介し、結果は当院がご自宅でご説明します。病院へ何度も通う負担を減らしながら、正確な診断と対応を可能にしています。
薬の使い方にも専門的な判断を
アルツハイマー型認知症では、進行を遅らせる効果のある薬もあります。ただし、多くの高齢の方はすでに複数の薬を服用されており、薬の相互作用や副作用が認知症の症状を悪化させているケースも少なくありません。
薬を見直すだけで認知症の症状と思われていた問題が改善する場合もあります。
「いつもと違う」に気づいたら
以下のような変化が見られたら、アルツハイマー型認知症の始まりかもしれません。
早めの対応が、ご本人の生活の安定にも、ご家族の安心にもつながります。
- 同じ話を繰り返す
- 財布に小銭ばかりたまる(少額もすべてお札で支払う)
- 笑ってごまかすことが増えた
- 料理の品数が減った・味付けが変わった
- 同じ服ばかり着る・季節に合わない服を着る
- 道に迷うようになった
- 外出や人付き合いが減った
- 性格が変わった、怒りっぽくなった
ご本人も、ご家族も、地域の支援者も
認知症の対応は、ご本人だけでなくご家族や支援者の負担にも大きく関わります。
当院では、精神科・認知症診療に熟練した医師がご自宅を訪問し、医療面はもちろん、ご家族の不安にも寄り添いながらサポートすることを心がけています。
「病院へ行くのが難しい」「最近少し気になることがある」——そんなときは、どうぞお気軽にご相談ください。地域で支える力になれるよう、私たちは日々の診療を行っています。